Secret GardenⅡ

アンティークや可愛いもの、そして奈良とつよしくんが大好きです。

ラブコメ今昔

昨日はいつもの病院だったので、待ち時間がたっぷりあると本を持参しました。
選んだのはちょこっとお久しぶりな有川浩さんの『ラブコメ今昔』。

ラブコメ今昔

ラブコメ今昔

時節柄、有川さんと言えばご当地小説『県庁おもてなし課』だと思うのですが。そこをチョイスしないあたりが天邪鬼な私らしいかと。(苦笑)
あえての、そこは避けましたわ。
なんか、あまりにも有名になると返って手を出し辛いんですよねー。
ま、いずれ手に取って、今の自分の判断を後悔する気はひしひしとするんですけどね。


それはさておき、『ラブコメ今昔』は『クジラの彼』に続く自衛隊にまつわる恋愛短編小説です。
収録作品は次の通り。

・ラブコメ今昔
・軍事とオタクと彼
・広報官、走る
・青い衝撃
・秘め事
ダンディライオン

最初の「ラブコメ今昔」と最後の「ダンディライオン」は同じカップルが登場しますが、あとはキャラのかぶりもなければ、所属のかぶりもないそれぞれが独立したお話。
あとがきを読むと、自衛隊に取材したときのインスピレーションがふんだんに生かされているようです。
どうも取材した自衛隊の方たちが揃いも揃ってキャラ立ちしてる人たちばかりだったらしいですけど、そういう人にきちんと行きあたっちゃう有川さんの嗅覚というか、これはお話になるぞって思って、そこにきちんと持っていっちゃう力量というのはやっぱり非凡なものを感じますねー。


自衛隊を舞台にしながら、中身は至って普通(?)の恋愛小説ですが、そこはちゃんと国防を預かる自衛官のプライドとかシビアさもしっかり入れ込まれてて、読むと、やっぱり自衛隊に対するイメージが変わります。

6つのお話、それぞれの感想を簡単に。
・ラブコメ今昔
表題作ですが、最初このちょっと変なタイトルが気になって、手に取ってしまったので、表題作としてはやっぱりこれが妥当なのかなー。
でも、タイトル的に好きなのは広報官、走るなんだよな。
という個人的嗜好はおいといて、自衛隊の広報誌のコラムに載せるために、50歳も過ぎたおっさんに妻との馴れ初めを語らせる凄腕の女の子が登場するんですが、ごめんなさい、この本の中でこの子だけ私苦手でした。
最後のダンディライオン読むと、この厚かましさも紙一重というか、しおらしい所もあるんだなーと思いましたけども、彼女の強引さがやっぱり鼻につきます。
悪い子じゃないんだけど、ね。

・軍事とオタクと彼
自衛官でオタクで年下な彼が可愛いんです。
でも、要所要所でとんでもなくカッコいい。
そこに2歳年上の主人公もほだされる、というか、落ちたわけですが。
これは、落ちるでしょう。(笑)
主人公、歌穂の弟がいい味出してます。
オタクの見極め方だとか、何気に姉のフォローをして回ってますよね。

・広報官、走る
自衛隊を舞台としたドラマの撮影にやってきた新米スタッフちゃんとスケジュール調整役の自衛官が王様キャラなディレクターに振り回されながら、惹かれていく、というお話。
業界ものの要素もありますが、下っ端はどこでも大変なんだなー、と。
でも、散々王様に振り回わされたふたりが、最後に打つさよなら逆転ホームランな展開には胸がすかっとします。
自衛官だからこそできた意趣返しはお見事。
国防に身を捧げてる彼らの生き様がきらりと光る小品です。

・青い衝撃
タイトルを英訳するとブルーインパルス
はい、もう舞台はなんだかわかりましたね。
自衛隊の花型、ブルーインパルスの飛行機野郎とその妻にまつわるお話ですが、これもタイトルがふるってます。
要するにダブルミーニングになってるんですよね。
ブルーインパルスと夫婦に走った激震をかけて青い衝撃としてあるわけで。
有川さん的には糖度控えめ、むしろ、どろり、とした感じではありますが、夫がモテすぎて卑屈になってた妻に最後、夫が明かした妻を好きになったきっかけが文句なく素敵です。

・秘め事
自衛官が上司の娘と付き合ったらどうなるのか、というお話。
ブコメにいけそうな話をあえてそうしないところが、有川さんの読めないところだなー、と。
バレてお父さんに殴られる、という結末は予定調和ですが、そこに至るまでに、自衛官と結婚することに対する覚悟が残酷な形で突きつけられます。
青い衝撃とはまた違った痛さのある話ですけど、取材してそういう自衛官の現実もあるんだなと知った身としては、書かねばなるまいと思ったお話だとか。

ダンディライオン
彼の写真にハートを鷲掴みにされた彼女と、彼の写真に込められたメッセージを読み取った彼女にハートを射抜かれた彼の馴れ初め話。
彼女の方は防大出のエリート、彼はそんな彼女より3つ年上にもかかわらず階級は下といういわゆる格差カップルがどうやって格差の壁を乗り越えたのかが語られるわけですが、その落としどころがうまいです。
ちゃんと彼の特技が生かされてるんですよね。


6つの作品それぞれが自衛隊を舞台にしながら、テイストは本当にバラバラなので、1冊で6回美味しいみたいな短編集です。
ちょっと脳内に甘さが足りない時に読むと十分糖分も補充できます。